「この報われない治療を、いつまで続ければ良いんだろう」
友達のAさんが、私にこぼした言葉です。
Aさんは現在38歳の女性です。
結婚してもなかなか子供を授からなかったので、35歳の時から不妊治療を続けています。
先日初めて妊娠した‼︎と喜んでいたのですが、結果的に流産してしまいました。
Aさんは治療を始めた当初、体外受精でもほとんど妊娠することはないと言われる、45歳で治療をやめると決めていました。
しかし、何年も成果の出ない治療を続けていて、さらに先日の流産で、この先も治療を続けるべきかわからなくなってしまったそうです。
そこでAさんは、ネットで出産せずに治療をやめた方のブログをいくつか読んでみました。
赤ちゃんを諦めたことによって、暗いブログになっているのかと予想していたAさん。
その予想に反して、今が楽しい!心がラクになった!という内容のものがほとんどでした。
「不妊治療は途中で諦めるタイミングを決めて良いんだ。
もし治療をやめてもそれほど後悔しなくてすむタイミングがあるなら、前向きに治療をやめることを考えてみたい」
と、Aさんは思ったそうです。
この記事ではAさんがネットを見て参考にした、不妊治療を諦めることを考えてみる3つのタイミングをご紹介していきます。
不妊治療を諦めるきっかけ
不妊治療は「出口の見えないトンネルをひたすら行くもの」とよく言われます。
治療の末に妊娠・出産まで至ることができれば、それは不妊治療の1つのゴールです。
しかしそうでなければ、やめ時が分からずどこまでやれば自分が納得できるのかもわからなくなってしまいます。
不妊治療をやめる決断をする場合、どのようなきっかけでその決断をすることになるのでしょうか。
この記事には、不妊治療に関する専門用語が出てきます。
不妊治療の検査や治療方法も以下の記事に詳しく載っているので、ぜひこちらの記事も読んでみてくださいね。
どうして協力してくれないの?不妊治療で夫の理解を得られる3つの方法
妊娠する可能性が極めて少ない
治療にうつる前の検査の結果、その夫婦で妊娠する可能性がほぼないとわかった場合、不妊治療を諦める1つのきっかけになります。
女性には、卵子のもととなる原始卵胞(げんしらんぽう)という細胞があります。
産まれた時には、子宮に原始卵胞を約200万個蓄えているのですが、20代には20万個ほどまで減少します。
さらにその後も一月に約1,000個ずつ減少し続け、最後にはなくなります。
原始卵胞がなくなれば卵子は作られなくなるので、妊娠は出来ません。
その人の子宮にあとどれだけ原始卵胞があるかは、血液検査である程度の目安を知ることが出来ます。
しかしこれはあくまで目安であることと、
原始卵胞はその人が産まれた時から一緒に歳を取っていく細胞なので、いざ使おうというときに加齢でうまく機能しないことがあります。
男性の場合は、無精子症により妊娠が望めないことがあります。
無精子症には、
- 閉塞性無精⼦症
精⼦は作られているが、精管という通り道が詰まっているため、精子が出てこられない
- ⾮閉塞性無精⼦症
そもそも精⼦をうまく作ることができない
この2種類があります。
閉塞性無精子症であれば、睾丸を切開して精子を取り出し、治療に使うことが可能です。
しかし非閉塞性無精子症は、他のさまざまな検査をしてもやはり精子の存在が確認できなければ、治療をすることはできません。
以上のように、卵子と精子の問題で妊娠が望めない場合があります。
何度やっても出産にたどり着かない
通常、不妊治療はタイミング療法、人工授精、体外受精と段階を踏んで進められます。
しかし体外受精まで進んだからといって、出産まで至る保証はありません。
そもそも妊娠出来なかったり、たとえ妊娠したとしても流産してしまったり、何度も挫折を繰り返していくうちに精神的に耐えられなくなってきてしまうことがあります。
Aさんは体外受精に進むまで妊娠することができませんでした。
体外受精で受精卵の移植を2回経験し、1回目は妊娠せず、2回目でやっと妊娠反応が出ました。
しかし、結局妊娠8週で稽留流産(けいりゅうりゅうざん)となりました。
稽留流産は、母親の自覚症状はなく、超音波検査をしてみたら胎児の心拍が止まっていた、という場合が多くあります。
受精卵の染色体等の異常が原因で、その流産を防ぐ方法はないとされています。
Aさんはこの妊娠まで、想像以上につらい治療に耐えてきました。
しかしやっとの思いでたどり着いた妊娠でも結局流産してしまい、こんなに辛い思いをして、45歳まで治療を続ける意味があるのかわからなくなってしまいました。
結局、それ以降は治療する気力がわかなくなり、Aさん夫婦はここで治療をやめることを検討し始めました。
年齢的、経済的に続けられない
不妊治療には年齢的なリミットがあります。
「高齢出産」が大変なイメージ、というのはなんとなく知っているかもしれませんが、そもそも妊娠するのに年齢のリミットがあることはあまり知られていないかもしれません。
原始卵胞のところでお伝えしたように、卵子は年齢とともに残りが少なくなり、質も悪くなってしまいます。
そのため、女性の年齢が35歳を過ぎると自然妊娠率が約5割まで下がり、流産や死産の確率が上がります。
女性側の年齢が上がるほど出産に至るのが難しくなり、産まれる子供のダウン症等のリスクも高くなってしまうのです。
経済的なリミットとは、その夫婦がどれだけ不妊治療に費用をかけられるかによって変わってきます。
しかし、体外受精は特に自費診療の部分が多く、一周期40万円から150万円程度かかります。
令和2年に拡充された体外受精に関する助成金がありますが、
全額補填されるわけではないのと、年齢や回数の制限があるため、やはりほとんどの費用は自分たちで用意する必要があります。
体外受精を何度頑張ってもなかなか子供を授かることが出来なければ、働いても働いてもお金が足りないということになってしまうのです。
このように、年齢と費用の問題から、これ以上治療を続けられないとなると、治療を諦めることを考えなければなりません。
こちらのリンクは、国からの助成金のサイトになります。
どのような補助があるのか、チェックしてみてくださいね。
不妊治療を諦めることを考える3つのタイミング
妊娠して子供を授かりたいという気持ちが強ければ強いほど、不妊治療にかける期間が長くなる傾向があります。
そして長い期間を費やしていると、
「次は成功するかもしれない。あともう一回だけ」
と、ズルズルと治療をやめるタイミングを逃し、さらに子供を諦めにくくなります。
不妊治療をやめるということは、子供がいる未来を諦めるということに等しいことです。
子供がいる未来を思い描いて治療をしているのに、その決断をすることはとても苦しいですよね。
夫婦で納得するまで治療を続け、費用も時間も出来るだけかけたい!と思うのは当然です。
しかし、現実は費用も時間も無限にあるわけではなく、いつかは自分たちで諦める区切りをつけなければいけません。
その時、少しだけ余裕を持って諦めるタイミングが見つけられれば、それだけで前向きに治療に区切りをつけることができるかもしれません。
ここでは、不妊治療を諦めることを考えてみると良い、3つのタイミングをご紹介します。
身体と心が辛いとき
不妊治療は妊娠を目指して我慢することが多く、痛い思いをする治療とたくさんの薬を使用するため、心身ともにかなり疲弊します。
治療をやめるということはそういった負担から解放されるため、自然な状態の心と身体に戻ることが出来ます。
不妊治療は通院の日程が排卵日を中心に決まることが多いため、明日いきなり通院となることがあります。
医師が指示する日程で通院できないと、その周期の治療はむずかしくなるため、妊娠を目指すためには出来るだけ予定の調整をしなければなりません。
そうすると、楽しみにしていた友人との約束をキャンセルしなければ、なんてこともあります。
また、Aさんは体外受精前の採卵をするため、自宅で自ら注射をして排卵を誘発することが辛かったといいます。
排卵誘発に使う自己注射は、写真のようなペンタイプが多く針が非常に細いため、比較的痛みも少ないです。
しかし、自分の身体に毎日針を刺すことが精神的にどうしても辛く、
「子供は欲しいけど、自己注射はいつまでたっても慣れることはできないなぁ」
と感じていたそうです。
この他にも毎日何種類もの薬を飲む必要があったり、それぞれ吐き気や頭痛などの副作用もあります。
Aさん夫婦は、これ以上の治療に身体と心がついていけない、と感じて治療をやめることにしました。
そして治療をやめると決めてからは、これまでと同じ薬を使用している間も、なんとなく心身ともにスッキリとしたそうです。
きっと、いつまで続くかわからない治療に、自分でも知らないうちにストレスが溜まってしまっていたんですね。
治療後の人生について考えたいと思ったとき
不妊治療をしている間は、妊娠と出産がひとまずのゴールとなります。
しかしそのゴールになかなかたどり着けないのなら、あなたの時間は止まったままだと感じるかもしれません。
Aさんは今まで不妊治療を一生懸命頑張ってきたのだから、これからは夫婦の生活を充実させたいと考えるようになりました。
治療をやめるとすれば、通院にあてていた時間が自由に使えるようになります。
その時間にどんなことに挑戦してみようか、何を始めようか、などと先のことを考えられるようになりますよね。
治療中は、人気の病院だと想像以上に通院に時間を取られます。
Aさんは、全国的にも不妊治療で実績のある病院に通っていたので、予約をしても常に4時間待ちでした。
治療をやめたあとは、その空いた時間を利用して英会話を勉強したいと考えました。
そしてAさん夫婦は、いつか海外に長期の旅行に行きたいという夢を、このタイミングで叶えることにしたのです。
Aさんのように、その後を前向きに考えられると、治療を諦めたあとも楽しく過ごせそうですね。
まだ余力があるとき
不妊治療は、とにかくお金と時間を使います。
また、自分でも気付かないうちに精神をすり減らしていきます。
しかし、まだ自分たちに余裕のある状態で治療をやめられれば、治療に使うはずだった時間・お金・気力を他の部分に使うことができますよね。
Aさんが通っていた病院では、院内でのみ閲覧できる、患者同士のネット掲示板がありました。
そこには日々の治療の進み具合や心境など、さまざまなことが書き込まれます。
ある日、10年不妊治療を続けても妊娠出来ず、治療をやめるという方の書き込みがあったそうです。
そこには、
「私は妊娠への諦めがなかなかつかず、もう45歳になりました。
これまでの治療でお金はすっからかんで、気力も使い果たしました。
みなさんはどうか、冷静にやめ時を見極めて、私のようにはならないでくださいね」
と書かれていたそうです。
この書き込みをした方は、子供を持ちたいという気持ちが強く、きっと誰よりも辛抱強く頑張ってこられたんだと思います。
しかし、もう少しだけ早く治療を諦める決断をしていたら、違う人生があったかもしれません。
不妊治療をしている人なら、子供が欲しい‼︎と強く思うのは当然です。
自分たちが望んで産まれてきた子なら、きっとかわいいですよね。
でも一度、あなたと旦那さんの生活も振り返ってみてください。
子供がいなくても、旅行や趣味など、2人で楽しめることはないでしょうか?
もしあるのなら、その2人で楽しめることのために、治療に使うはずだったお金や時間、気力を使ってみるのはどうでしょうか。
治療を続ける、続けないを決めるのは、治療をする夫婦次第です。
お2人でよく話し合って、互いの気持ちを伝えてみてくださいね。
想い合った2人が決めることですから、きっと納得できる結果になるはずです。
不妊治療を諦めた後の過ごし方
不妊治療をやめると決めたとしたら、しばらくは本当にこれで良かったのかな、と思う時間があるかもしれません。
これまで長く辛い治療を頑張ってきたのですから、そう思って当然です。
すぐに気持ちを切り替えることは難しいですよね。
でも、あなたはきっとその後の人生を前向きに歩んでいきたいと考えているはずです。
では、治療を諦めたあとの自分を少しずつ受け入れるために、どんな過ごし方をすれば良いのかみていきましょう。
事実を受け入れる
まずは、自分たち夫婦では妊娠できなかった、という事実を認めてみましょう。
また、まわりから「子供は作らないの?」と言われたら、「不妊治療を頑張ったけど授からなかった」と公表してしまうのも良いかもしれません。
これは一見、自分たちの傷を抉るようで辛いと感じるかもしれませんが、
治療していたことを曖昧に濁したまま過ごすよりも、認めることで「不妊治療を頑張っていた自分」を受け入れ、気持ちがスッキリするのではないかと思います。
Aさんはもともと生理不順だったので、治療中はホルモンバランスを整える薬を飲んでいました。
治療を終えてその薬を飲まなくなると、またもとの不順な生理周期に戻ったのですが、
そのことでかえって、
「私の身体はこれが本来の状態なんだ」
とストンと受け入れることが出来たそうです。
新しい環境に身を置く
治療が終わるのを機に、2人のための家を購入したり、新しく仕事をはじめたり、何か生き物を飼うのはどうでしょうか。
「私って、ただ時間とお金を使っているだけで妊娠出来ないし、ダメだな」
と治療中はマイナス思考に陥りがちですが、新しいことを始めれば前向きに打ち込むことができると思います。
打ち込むものが出来ると、あなたにとって大切なものも増えるので、きっと毎日がさらに充実するはずです。
Aさんは、治療後に仕事を始めました。
もちろん家計のためでもありますが、そのお給料ではじめて熱帯魚を飼いました。
水の音や魚たちが泳ぐのをみていると、とても癒されるようで、
今では夫婦でどんな水槽にしていこうか、次はこんな魚を入れたらどうか、とすっかりハマっているそうです。
Aさんの職場に熱帯魚に詳しい方がいるので、色々聞いているうちに人間関係も広がりました。
Aさん夫婦は、子供がいない未来を選択するのはとても辛かったけど、今はたくさんの友人に囲まれて充実した日々を過ごせています。
まとめ
不妊治療は、続けたからといって子供を授かれるかどうかはわかりません。
いつかはこの長く辛い戦いを諦める時が来るのですが、実はそのタイミングは夫婦の今後を見つめ直す機会でもあります。
不妊治療を諦めることを考えてみるタイミングとして、
- 身体と心が辛いとき
- 治療後の人生について考えたいと思ったとき
- まだ余力があるとき
この3つの時があります。
不妊治療は先が見えず、検査の結果に一喜一憂してしまうし、痛い治療もたくさんありますよね。
辛抱強く治療を続けているあなたは、本当に頑張っています。
ここで一度まわりを見渡してみて、このまま治療を続けたいのか、夫婦で違うことをしてみたいのか少し考えてみませんか?
考えた結果、治療を続けても続けなくても、あなたにとって納得した結論になることを心から願っています。
この記事を読んで、少しでもあなたの今後の手助けになればうれしいです。