山にどれだけ多くの危険生物が存在するか、把握していますか?
人里離れて山を歩くのは、心身のリフレッシュに繋がります。
しかし、同時に多数の危険生物に遭遇するリスクも高まります。
正しい遭遇回避策を身につけ、安全に楽しく行動して山の魅力を満喫しましょう。
山にはどんな危険生物がいるの?
まず、山にはどんな危険生物がいるか、から説明を始めます。
下記に、山歩き中に遭遇する恐れのある危険生物を記載します。
動物系
- 熊
- 蛇
- ニホンザル
- イノシシ
虫・ヒル
- 蜂
- ダニ
- アブ・ブヨ
- ムカデ
- ヒル
- 毛虫・蛾
リストを見ただけでもかなりの危険生物がいる事が分かりますね。
では、順に対策法も交えながら詳しく見ていきましょう。
動物系の危険生物
代表的な生物である熊以外にも、イノシシやニホンザル等多数の生物がいます。
ここでは、動物系の生物について説明していきます。
熊
日本には、ヒグマとツキノワグマが生息しています。
- ヒグマ
北海道には生息しており、遭遇時の危険度が極めて高い危険生物です。
雑食性ですが、肉食を好むので人間を食い殺す事もあります。
体長は3m前後にもなり、日本の陸にいる哺乳類の中でも最大クラスといえます。
- ツキノワグマ
本州や四国に多く生息します。
ヒグマ同様雑食ですが、こちらは植物を主食とする草食寄りです。
人間に遭遇すると逃げる場合が多いものの、子育ての時期は小熊を守るため襲ってくるケースも増えます。
遭遇しやすい場所・時期・時間
出会わない様にする事が最も重要になります。
遭遇を回避するためにも、下記の点は要注意です。
食べ物がある場所
山菜や若葉、花、ナッツ、魚を好物としており、沢沿い、湿原、周囲に木の実が落ちている所、花畑等では遭遇の危険が高まります。
特にブナやドングリの実、鹿等の動物の死体のある所は要警戒です。
見通しの利かない場所
見通しが利かない林の中や音の聞こえづらい沢沿いでは、遭遇するリスクが大きくなります。
朝夕の時間
熊は朝夕に活動が活発になるので、この時間帯が最も遭遇リスクが高くなりますから、この時間帯を避けて行動しましょう。
春〜秋の時期
冬以外は活発に行動します。
特に親離れした6〜7月の若い熊は、好奇心旺盛で、かつ、活発に動き回るので、注意が必要です。
遭遇回避法
音を出して熊に知らせる事が重要となります。
ベル、ホイッスル、ラジオ、スマホ等が役立つでしょう。
又、声を出す、グループ登山で会話しながら進む、手を叩く等の道具を使わない方法でも効果はあります。
ただ、周囲に他人がいる場合、無闇に音を出すと怒る人もいますから、気配りも要ります。
そういった際には、友人と話しながら進むのが一番無難な策でしょう。
そこでの楽しい会話は、きっと良い思い出にもなりますよ。
遭遇時の対処法
運悪く遭遇してしまった場合、状況に合わせて下記の様に対処しましょう。
熊と距離がある場合
慌てずゆっくり後ずさります。
熊は、人を認識すると基本的にその場から立ち去る場合が多いそうです。
ですから、熊が近づいてきた時は、石や倒木の上に立ち、大きく腕を振りつつ穏やかに声をかけ、こちらが人だと認識させましょう。
それでも近づいてくる場合、捕食目的である可能性も高いので、木の上などの避難できる場所があれば、すぐに移動します。
退避場所や逃げ場がない状況の時は、近くの石や倒木の上に立ち、自分の体を大きく見せつつ、大声や音での威嚇をしましょう。
2人以上で行動している場合、可能な限り個別行動はせず、集団行動する様にします。
熊避け用スプレーを携帯していれば、噴射の準備を。
熊と突然遭遇した(近距離の)場合
熊も人を恐れている場合が多いため、落ち着いて両手を大きく振りながら退避しましょう。
熊を見て、穏やかに声をかけながら後ずさります。
熊がこちらに突進してきた場合
相手を威嚇するために突進し、途中で止まり後退するケースが多いです。
威嚇のための突進の場合、穏やかに声をかけつつ、熊との間に岩や木等の障害物を挟む様にゆっくりと後退しながら移動しましょう。
又、上記同様熊避け用スプレーを携帯していれば、噴射準備をします。
突進を止めず、至近距離まで接近した場合、熊避け用スプレーを熊の顔に一気に全量噴射しましょう。
効かない時は、その場に倒れこみ、首の後部に両手を回してうつぶせになり、やり過ごします。
転がされても元の姿勢に戻る様に努めましょう。
ハエが沸いている所に熊がいる!?
キバネクロバエというハエは、幼虫の時に熊の糞を餌にします。
ですので、もしハエが近くにたくさんいたら、近くに新しい糞がある可能性も十分あります。
新しい糞がある=近くに熊がいる恐れがある、という事ですので、一つの目安にすると良いです。
仮に熊がいなくても、ハエにたかられて良い気などしませんから、さっさと退散するのが得策でしょう。
毒蛇
日本に済む毒蛇は、下記の3種類です。
- ヤマカガシ
本州に生息し、主にカエル等を主食としている中型の毒蛇です。
持っている毒に対しての特効薬がないので、噛まれると非常に危険となります。
牙が短かいので、厚手の服を着ていた場合、体内まで毒が届かずに済むケースもあります。
- マムシ
日本全土で姿を見せる蛇で、攻撃的な個体が多いのが特徴です。
非常に強力な毒を持ち、噛まれて死亡する事例が多数発生しています。
- ハブ
沖縄を中心に生息しており、大型で2m以上にもなる場合があります。
遭遇しやすい場所
ヤマカガシやマムシは藪や水辺付近の草地で、ハブは林道や川沿い、人家周辺の薮での被害が多く報告されています。
遭遇回避法
上記場所に多く生息しているので、山道を外れない様に行動し、無闇にに薮の中に踏み入らない事が肝心です。
蛇は変温性で、気温の上下に比例して体温も上下しますから、昼夜共に気温の高い7月~9月頃にかけて活発に動きます。
ですので、上記時期や、気温の高い日中の時間帯は要警戒です。
遭遇時の対処法
遭遇した際は静かに離れしょう。
決して攻撃したり刺激してはいけません。
マムシは熱を感知しそこを攻撃しようとしますから、優先的に露出部を隠すと良いでしょう。
万一咬まれてしまった場合は、安全な位置まで避難後、下記手順で処置します。
- 噛まれた部位より心臓に近い位置を布等で縛る
- 心臓の高さよりも下にしておく(毒の回りを遅らすため)
- 毒抜き器(ポイズンリムーバー)で速やかに毒を抜く
- 水で患部を洗浄する
- 要救護者を安静にする
- 速やかに救急連絡し、医療機関へ向かう
事故現場の位置がはっきりしている場合、119番に連絡を入れます。
草むらの中などで位置がはっきりしない場合、110番に連絡をしましょう。
あらかじめ歩く山の所轄警察署を携帯に記録させておくと、スムーズに処理が進みますので、事前に調べておく事を推奨します。
ニホンザル
国内の山中に広く生息し、主に木の上で集団行動しています。
通常は人間に近づいてこないものの、こちらから近づいたり、大声をあげると刺激してしまうので、危険です。
見かけたら注意を払いながら静かに距離をとりましょう。
特に、じっと目を合わすと「威嚇された」と勘違いされるので、目を合わさない様にします。
万一猿が襲って着た場合、大声や護身用のブザーで威嚇しましょう。
又、熊避けスプレーも効果があります。
イノシシ
西日本のほぼ全域と、本州及び東北の一部に生息している、豚の祖先と言われる生物です。
しかし、その突進力は豚の祖先とは思えない程の、俊敏さと威力を持っています。
雑食性で、植物を中心とした生活をする特徴を持ちます。
下あごに大きな牙があり、体長は1.8m、体重は180kgにもなります。
通常は怖がって逃げるので、人間に近づいてきません。
ですが、中には人里に下り、餌を取る過程で人間に慣れ、怖がらなくなった個体もいるので注意が要ります。
遭遇しやすい場所及び遭遇回避法
草むらや雑木林の中等、見えない所での遭遇が多いですから、そういった場所では気をつけましょう。
音を出してイノシシに存在を知らせるのも有効です。
遭遇時の対処法
熊の場合同様、刺激しない様にします。
落ち着いているイノシシ(こちらを気にせずゆっくり歩いている時等)を見た場合、慌てず、走らず、速やかに立ち去りましょう。
この時、イノシシの通路を塞がない事が肝心です。
イノシシは興奮すると、牙を鳴らし音を立てます。
又、毛を逆立て地面をひっかく動作をしますから、こういった動作を見たら、イノシシの視界に自分が入らない所へ避難しましょう。
いずれの場合においても、速やかにイノシシに自分の姿を見せなくするのが最善の対処法です。
尚、犬を連れているとイノシシが興奮して敵と認定するので、山歩きの際には愛犬は同行させるのはやめましょう。
突進時の回避法
イノシシから見えない位置に隠れたり、木の後ろに隠れたり登ったりするのも有効です。
左右片方に身をかわす、あるいはジグザグに逃げる方法も効果があります。
他にも、色付きの傘を勢い良く開くと、イノシシの視界が遮られ、不安になったイノシシが逃げていく場合もあります。
ですから、風雨対策を兼ね、色付きの折り畳み傘を携帯する事を推奨します。
虫・ヒル系の危険生物
山歩きで危険なのは大型獣ばかりではありません。
ここでは、人間に危害を及ぼす毒虫やヒルについて説明します。
蜂
毒を持つ虫の代表ともいえる生物です。
スズメバチ等は毒性も強いので特に注意が必要です。
樹上や草むらにある巣に気づかない内に近づき、刺されてしまうケースも多く発生しています。
ですから、山道からあまり離れた場所を歩かない様にするのが、最善の方法といえます。
尚、下記のスズメバチへの対処法も参考にして頂ければと思います。
知らないと命取り!スズメバチの巣作り対策と万一刺されたときの対処法
ダニ
自然の中にも数多くのダニが生息しています。
中でもSFTSを媒介するマダニには注意が必要になります。
SFTSとは、6日~2週間の潜伏期間後、発熱、消化器への異常、意識障害や失語等神経症状を引き起こす病気です。
発病した場合、致死率は10~30%にのぼる上、現在有効なワクチンがないと言われています。
藪の草葉の裏や、動物の死骸にも群がり生息しています。
成虫では吸血前で3〜8ミリメートル程で、肉眼でも見える大きさです。
対策法
刺されない様、なるべく露出の少ない服装で行動しましょう。
又、虫除けスプレーでの回避や、体をなで回してダニがついていないか確認すると良いです。
なで回す際は手袋の着用をお忘れなく。
刺された時は、無理に取ると、口器が皮膚に残って後に炎症する場合がありますから、軟膏やクリームを塗布して窒息させましょう。
その後、数週間は体調変化に注意し、発熱等の症状が出たら、医療機関で診察を受けるようにします。
アブ・ブヨ
よく知られた吸血生物です。
刺された瞬間強い痛みを覚え、後に強いかゆみへと変化します。
尚、アブは真夏の気温が高い時ほど、活動が抑制される傾向があるようです。
対策法
吸血被害を受けないためのポイントを下記に記載します。
- 木陰で休む時は気をつける
- 早朝や日没前の気温が下がった時は注意する
-
虫よけスプレーを使う
- ハッカ油を使う
- 手で振り払う
吸血被害を受けたら、速やかにかゆみ止めを塗りましょう。
ムカデ
山中の様々な所にいます。
咬まれると激しい痛みを感じると共に、赤く腫れ上がります。
又、アレルギーによる蕁麻疹、呼吸困難等のショック症状を呈する場合もあり、警戒が必要です。
気づかずに誤って触れてしまい、咬まれてしまう場合も多くありますから、無闇にあちこち触れない様にしましょう。
咬まれた場合の対処法は以下です。
- 患部を水で洗う
- かゆみ止め(痛み止め)を塗る
- ポイズンリムーバーで毒を抜く
ヒル
本州、四国、九州等にはヤマビルが生息しています。
初夏〜初秋頃は生息密度が高くなる、雨中や雨後は活動が活発になるといった性質を持ちます。
円筒形の2~5cmの体を持ち、草むら等に隠れ、大型動物や人間が近づくと飛びついてきます。
落葉の下等の湿気の多いところにも好んで潜み、足元からこっそり忍び寄ってきて吸血する場合もあるので気をつけましょう。
咬まれてもヒルジンという麻酔成分がかゆみを抑えているので、吸血中に気づきにくいのが特徴です。
さらに、ヒルジンには血液の凝固を抑制する成分が含まれるので、傷の治りも遅くなります。
ですから、咬まれるとその後かゆみと出血症状を呈します。
蚊と同じやり口ですね。
おまけに出血までさせるとは、実に憎たらしい限りです。
対策法
ヒル対策の方法は、以下です。
- 虫よけスプレーを肌にかけておく
- ズボンの裾を靴下の中に入れる
-
出血が多い場合、ガーゼや絆創膏を使い止血を行う
-
飲み水や冷却スプレーで患部を冷やす(腫れ抑制)
毛虫・蛾
毛虫は、木の枝や葉の裏、落ち葉の陰に潜んでいます。
ですから、こういった場所にうっかり手を触れないよう注意しましょう。
又、本州、九州、四国に生息するチャドクガは、体長1.5~2cmの蛾で全身に針を持っています。
毛虫同様、体に触れるだけで患部が広範囲にわたって赤く腫れたり、かぶれたりします。
尚、毒針は風にのって飛んでくる事もありますから、不用意に蛾に近づかないのが最善策です。
刺された場合の対処法
- 毛抜きで毒針を抜く(毛虫の場合)
- ガムテープ等を皮膚に付け、はがす(チャドクガの場合)
- その後、患部を洗い流し冷却する
- かゆみ止めを塗る
- ローラー(コロコロ)等で服に付いた毒針を抜き取った後、念入りに洗濯機で洗う
- 着ていた服をアイロンがけ(熱処理)する
チャドクガの針は熱に弱いタンパク質で出来ており、熱を加えると性質が変化します。
50度以上の温度があると効果があるそうです。
なので、アイロン掛けは有効です。
危険生物チェックリスト一覧
下記に、危険生物の居場所と回避法をまとめた一覧リストを記載します。
動物系
種類 | 遭遇場所 | 回避法 | 対処法 |
熊 | 食料のある場所、見通しの効かない場所、朝夕の時間 | 音を出す | 慌てずゆっくり後ずさる |
毒蛇 | 薮の中、水辺付近、山道 | 山道を外れない | 静かにその場を離れる |
ニホンザル | 山中の樹上等 | 樹上に注意する | 発見しても近づかない、じっと目を合わさない、静かに離れる |
イノシシ | 見通しの効かない場所 | 音を出す、薮に踏み込まない | イノシシの視界から外れる、イノシシの通路を塞がない |
虫・ヒル系
種類 | 居場所 | 回避法 | 対処法 |
蜂 | 樹上、草むら等 | 山道から離れない | 刺激せずゆっくり離れる |
マダニ | 葉の裏等 | 露出の少ない服装をする、虫除けスプレーを肌にかけておく | 軟膏やクリームを塗る、手袋で体をなで回す |
アブ・ブヨ | ー | 虫除けスプレーをかける、手で払う | かゆみ止めを使う |
ムカデ | ー | 無闇にあちこち触らない | 毒抜きする、かゆみ止めを使う |
ヒル | 草むら、落ち葉の下 | ズボンの裾を靴下の中に入れる、虫除けスプレーをする | ガーゼや絆創膏で止血する、水で洗う |
毛虫・蛾 | 木の枝、葉の裏、落ち葉の陰 | 無闇にあちこち触らない | 毒針を抜く、水で洗い流す、かゆみ止めを塗る |
まとめ
最後に上記事項を再度おさらい致します。
- 不要に山道から外れない
- 無闇にあちこち触らない
- 露出の少ない服装を心がける
- 虫除けスプレーは必須
- 動物に遭遇したら慌てず静かにその場を離れる
- 音で周囲に存在を知らせる
山には多数の危険が潜んでいます。
しかし、山は多くの魅力も秘めています。
正しい知識をもって行動すれば、時には愛らしい生き物たちが、あなたを癒してくれるかもしれませんよ。